JIL SANDER (ジルサンダー)
ドイツ出身のデザイナー、ジルサンダーが自身の名を冠して1968年に立ち上げたブランド、JIL SANDER (ジルサンダー)。
デザイナーのジルサンダーは、少し珍しい経歴の持ち主であり、「クレフェルド・スクール・オブ・テキスタイル」というテキスタイルの専門学校を出てからカリフォルニア大学に留学し2年在籍、その後一度ニューヨークの出版社で働いていました。
日本とは異なり、一律に点数化される評価基準ではないため、あまり偏差値といった概念が持ち出されず、カリフォルニア大学のイメージがつきにくいかもしれませんが、世界の大学ランキングで見ると、数ある分校を平均しても日本で言う東京大学や京都大学に並ぶレベルであることが分かります。
元々医者を目指していたアルマーニと近く、数あるブランドの中でも非常に高学歴なデザイナーであり、そうしたところがファーストキャリアでは出版としてファッションに携わることに導いたのかもしれません。
そこで「マッコールズ(McCall’s)」、「コンスタンツ」などの女性誌のファッションジャーナリストを経て、65年に帰国。
その後1968年、ドイツのハンブルグにてブティックを開いたのがこのブランドの始まりになっています。
遅咲きのジルサンダーとミニマリズム
しかしそんなジルサンダーのブランドは決して最初から順風満帆な訳ではありませんでした。
皮肉なことにその理由でもあるのが、ジルサンダーのブランドコンセプトでもある「Design Without Decoration」。
「文字通り、余計な装飾のないデザイン」で、足し算というよりはむしろ引き算によるアプローチでミニマルなデザインを作り出すスタイルで、デザイナーが変わっても常にブランドを流れるDNAであり、今もファンを魅了し続ける美しいセンスなのですが、現れる時代だけがハマりませんでした。
彼女がデザインを始めた70年代半ばから80年代始め辺りと言うのは、クロード モンタナがデザインするようないわゆる「気前がよく、カラフルで派手」な服が主流で、彼女のようなミニマルなデザインとマッチせず、
一度は73年にパリ・プレタポルテ・コレクションにデビューするも、80年にパリを撤退。
ウェアと並行して販売し好調だった香水の売上を頼りに堪え忍ぶ時期でした。
しかし「ミニマリズムの旗手」と呼ばれるヘルムート・ラングが現れ、1980年代後半あたりから、装飾的なものや技巧的なものを排除し、最低限の手法でシャープなスタイルを提案し、業界の流れがミニマル&コンセプチュアルな方向へ変わり始めます。
そして85年よりミラノヘ活動の場を移し、参加した87年のミラノコレクション。
このコレクションで縫製技術の高さ、シンプル且つミニマルでシャープな感性が現代女性に受け入れられ、「フランクフルトのアルマーニ」と称される程、高く評価されます。
そうしてようやく彼女の繊細でミニマルなデザインが見出され、晴れて脚光を浴びるようになったジルサンダーですが、時代とマッチしてからの成長は早く、瞬く間にトップブランドの座に上り詰めます。(この間1997AWコレクションからメンズコレクションがスタートします)
しかしブランドの絶頂とも言える99年、プラダグループに買収され、20AWのコレクションを最後にジルサンダーはデザイナーを辞任します。
ジル・サンダーは、服作りに対して非常に厳しい目で見る姿勢から「鉄の女」と呼ばれる程、妥協を許さない職人的な性格であり、素材の品質を落としたくないという彼女の意向が、コストや利益を重視するプラダ本社のディレクションと衝突したのがその理由と言われています。
辞任後の2001SSコレクションは残ったデザインチームが手掛け、2000年12月に新クリエイティブ・ディレクターとしてミラン ヴィクミロビッチが就任。(ex「グッチ」デザイン・ディレクター,「コレット」元バイヤー)
ジルサンダーが不在の中でも、高い売上を叩き出し、その手腕を発揮します。
その後2003年5月にグループの呼びかけで一度ジルサンダーが復帰しますが、2004年11月に再び辞任。そして2005年、ラフ・シモンズがクリエイティブ・ディレクターとして起用され、これが大きな話題を集めます。
アーティスティックで、メッセージ性の強い彼が、このミニマルで気品の高いジルを触るとどうなってしまうのか、期待と不安が半々であったこのニュースですが、実は元々クラシックなテーラードスタイルにも定評があったラフによるジルサンダーは、蓋を開けると一切の不安を忘れさせる傑作。
ジルサンダーとは斯くあるべきという軸を曲げることなく、それでいて圧倒的なクリエイティブで、2012年までの9年間、極めて高い評価で走りきります。
ラストコレクションとなった2012AWでは、その完成度の高さに意外性のあるBGMも相まって涙した関係者も多数いたと言います。
その後は2014年4月、新クリエイティブ・ディレクターにロドルフォ・パリアルンガ(Rodolfo Paglialunga)が就任し、2017年に退任。
後任として2017年から現在に至るまで、*ルーシー・メイヤーとルーク・メイヤーの夫妻がクリエイティブディレクターに就任し、ジルサンダーらしさはぶらさずに、ストリートとメゾン、両方の見地から生み出されるデザインで、今再び脚光を浴び始めています。
ルーシー・メイヤー
ルイ・ヴィトンやバレンシアガで経験を積み、ラフ・シモンズ率いるディオールのウィメンズ・コレクションとオートクチュール・コレクションのヘッドデザイナーを務めた。ルーク・メイヤー
元Supremeのヘッドデザイナーであり、共同設立者としてメンズブランド「OAMC」をローンチしたデザイナー。
ジルサンダーのデザイン
先述の歴史部分にも再三登場しましたが、ジルサンダーと言えばやはり余計な装飾のないミニマルなデザインです。
色数も装飾も、足し算によるアプローチが多い中、基本的に引き算で整えていく側のブランドであり、綺麗なシルエットのアイテムを同系色で合わせ、落ち着きや統一性を持たせながらもどこかモードな空気感を漂わせるルックが特徴的です。
そんなブランドを語る上でも「ミニマリズム」がよくそのテーマとして挙げられるジルサンダーですが、本人は安易に「ミニマリスト」と表現されることを嫌がると言います。
実際、最終的にプロダクトとして人目に出るものはミニマルに帰着していても、それに至るまでたくさんのリサーチや思想が詰め込まれている訳ですから、そういった過程を顧みず「ミニマル」と言ってしまうのは強引と言うか失礼な部分があるかもしれません。
そういった一括りな表現をしてくる方への当て付けではないと思いますが、実はそんなジルサンダーも、要所で遊びの効いたアイテムが展開されます。
全体的にニュートラルなバランスに持っていくブランドであるからこそ、逆に一点癖のあるアイテムが入っても、サラリと馴染んでいきますし、こういった部分にも手札があるという奥行きが独特の空気感の理由なのかもしれません。
少し細かい型は異なるかもしれませんが、例えばこの透明なコートをm-floのVERBAL氏がキャッシュで即買いしたという話は有名だったりします。
シンプルで清潔感溢れるデザインと並行して、それだけに止まらずファッションリーダーを唸らせる提案をしてくるのもジルサンダーの魅力かと思います。
是非また一度調べてみてください。
詳しいコレクションはこちら
http://www.fashion-press.net/collections/3879
参照:
https://www.fashion-press.net/brands/60
https://www.fashion-press.net/news/47167
https://autograph.ismedia.jp/articles/-/149