doublet (ダブレット) /デザイナー 井野将之、村上高士
2012年、デザイナーの井野将之氏とパタンナーの村上高士氏によって設立されたブランド、doublet (ダブレット)。
ブランド名の「doublet」は、『不思議の国のアリス』の作者として知られるルイス・キャロルが世に広めた言葉遊びの名前に由来します。
ちなみにそのルールは、一つの単語から出発して、文字を一字ずつ変えていき、別の単語にしていくというもの。
例えば「お茶(TEA)を熱く(HOT)しろ」という問題であれば、「TEA(お茶)→SEA(海)→SET(一組)→SOT(飲み助)→HOT(熱い)」といった具合に。
参照:http://www.torito.jp/puzzles/205.shtml
そんなダブレットのコンセプトは「ベーシックでスタンダードなアイテムをベースに、唐突なアイデアを混ぜ込んだ『違和感 のある日常着』」。
ブランド名が意味する言葉遊びのように、元々のイメージが部分的な転換を重ねて新しいものになっていくデザインが特徴的です。
デザイナーの井野氏は幼い頃からユニークなアイデアを思案し、モノを作るのが好きだったといいますが、高校時代に目にした裏原の熱量にあてられファッションの道を志します。
そして東京モード学園を卒業後、アバハウスで企業デザイナーを務めた後、自らのブランドを立ち上げるべく独立。
しかし肩書を失ってからの世間の対応はこれまでとは大きく異なり、心機一転、一からの出直しを図り、浅草のベルト工場で現場の立場を経験します。
そして試行錯誤の後、チャンスを見事掴み、ミハラヤスヒロで靴デザイナーをすることになった彼は、企画から生産までの全ての工程に携わります。
ここでの7年間に及ぶ経験を積み、改めて立ち上げられたのがこのダブレットであるため、「人との出会い」を大事にしたブランド運営がされています。
参照:http://sow-fca.tokyo/sp/think/fnv/doublet.html
ノームコアの流れに対する解答
ダブレットのデザインは少し前述しましたが、昨今のノームコア*の流れに対する一つの解答を見せてくれます。
*ノームコア(Normcore)
ファッション傾向やライフスタイルの潮流を示す表現の一つ。英語のノーマルとハードコアを組み合わせてできた「筋金入りの普通」や「究極のシンプル」を意味する造語。
参照:コトバンク
ノームコアスタイルは「誰もが個性的であろうとしすぎることがかえって没個性化を招き、結果的に徹底して普通であることのほうが個性的である」という逆説的な考え方を基本にしており、スティーブジョブズなどの起業家の影響もあって流行に拍車がかかりました。
しかしデザインでの差別化という選択肢を奪われて浮上するのは分かりやすい価格競争で、業界としては非常に辛い負のサイクルにありました。
このダブレットはそんな状況を打破するような、正直過剰とも言える差別化が特徴的です。
2017ssのテーマに至っては、“TWOO MUCH”ですし、その潔さがむしろ清々しい程です。
どの程度差別化を図るのを良しとするかは人それぞれ好みがありますが、「少々度の過ぎたぐらいがちょうど良い」と考える方にとっては、ドメブラの中でも有数の選択肢になるはずです。
実はダブレットは既に世界一のセレクトショップと名高い『colette』や『Dover Street Market』といった、ずば抜けて感度の高いセレクトショップで取り扱われており、
〈424〉のデザイナー・Guillermo Andrade(ギレルモ・アンドラーデ)も手放しで賞賛したそうで、海外での評判も非常に高いブランドです。
価格帯はシャツ類やニット類で大体¥30,000~ということを考えると、もちろん簡単に買える値段ではありませんが、海外のセレクトですと大体その2倍近くしてきますので、日本の定価で買えることはありがたいことでもあります。
doubletの名作
カオス刺繍(CHAOS EMBROIDERY)シリーズ
スカジャン(スーベニアジャケット)
ダブレットの名作はいくつかありますが、やはりこのカオス刺繍が最もキャッチーでダブレットを象徴するディテールで、それを組み込んだアイテムがダブレットのキラーアイテムといえます。
スーベニアジャケットとは、元々滞在中の米兵が帰国するときに自分の服に滞在国の刺繍を入れてお土産にするのが由来となっているアイテムなのですが、
これはアラスカのシロクマ、ハワイの地図、1960年代のドイツのヴィンテージ刺繍と、幾つもの図案が重ねて刺繍されています。
シーズンによって刺繍は変わりますが、とにかく重ねすぎのこの過剰な図案レイヤードが顔を覗かせたらダブレットという訳です。
元々スポーティーなアイテムであるはずが、これほどカオスに刺繍が重ねられることによって、一つだけの図案ではおそらく感じることのなかったであろうモード感が漂ってくるのが面白いです。
価格は¥70,000程度。
ジャージ
スーベニアジャケットで高い評価を受けた「CHAOS EMBROIDERY」というディテール。
そしてそのディテールとダブレットの人気爆発を紐付けたのがおそらくこのジャージです。
昨今の一大トレンドとなっているスポーツMIXの中で、アイテム的にはスポーツでありながら、明らかにその他とは一線を画したモード顔の一着として話題となった火付け役です。
トラックジャケットとトラックパンツのセットアップでリリースされ、勿論上下で着ても良いですし、普通に片方だけで着ても非常にかっこいいアイテムです。
合わせると¥90,000程してきますが、上下買いがオススメです。
取り立ててパンツの方の汎用性の高さは凄まじいので是非ご検討を。
ワッペンニット
冒頭のルックでもありますが、このワッペンニットも非常に話題を集めたアイテム。
少し記憶が定かではありませんが、たしかメンズノンノでもスタイリストの小松嘉章氏が購入アイテムとして紹介されていました。
懐かしいスクールテイスト漂うチルデンニットに、これまた過剰に貼り付けられた大量のワッペン。
ただ数が多いだけでなく、裾の下まではみ出てしまっている辺りが最高に洒落ています。
値段は5万円弱とニットとしてはかなり値の張る部類でしたが、足踏みしている間に在庫が消えていて悔しい思いをした方も少なくはないはずです。
上記のニットは定番リリースではありませんが、パーカーやスウェットなどトップスで何かしらのリリースがされることは多いです。
2019AWではセットアップにもこのディテールが用いられ、これまた即完売の名作となりました。
2019AWではジャージもですが、刺繍の色合いを同系色でまとめることによって、主張はありながらも全く嫌味でないアダルトライクな落とし込み方で、これはこれでまた素敵な一着となりました。
上に紹介してきたカオス刺繍のアイテムは毎シーズン大人気ですので、要チェックです。
HAND PAINTED FUR JACKET
こちらも語らずにはいられない名作、HAND PAINTED FUR JACKET。
背面の「THE PAINTING」の文字とセンセーショナルなアイコンが目を引きます。
最初に登場したのは2017AW。
「PAINTING」という文字列の近さも合間って、patagoniaのパロディーのようなデザインで話題を集め、更にBIGBANGのG-DRAGONが着用したことから、凄まじいプレ値で取引がされるようになった代物です。
そしてここのところ2年に渡って定番でリリースされております。
個人的にも2018AWのHUSKYは一目惚れして即買いしたのですが、とにかくこのキャッチーな見た目とそれを裏付ける拘りには魅きつけられます。
1点1点京都の着物職人によるエアブラシとハンドペイントによってグラフィックが施されており、毛の根元まで綺麗に染められているので、毛が動いても柄がくっきり見える、単純なプリントでは実現しない立体的な表情に仕上がっております。
2019AWでは「Surprise! “驚き!(なさい)”」というテーマも合間って、少しホラーテイストの柄となり、2018AWほどの惹きはないかもと思ったのですが、実物を手に取ってしまうとやはり非常に力のある服だったようで、心配無用の即完売という結果になっておりました。
基本的に¥80,000程度の価格帯にはなりますが、激戦となること必至ですので、デリバリーの状況は細かくチェックしておくのをオススメします。
スケートボードバッグ
最後に説明しておく必要がある名作がこのスケートボードバッグです。
「newneu.」とのコラボで生まれた、スケートボードの見た目をしたバッグです。
側面のチャックから中身の出し入れができて、携帯や財布ぐらいを収納することは可能ですが、普通に荷物を持ち運ぶために使うバッグでないことは確実でしょう。
自らの持つアイテムにツッコミどころを求めたい人が手にするべきアイテムです。
マスイユウ氏をはじめに、数々のインスタグラマーの愛用で小物ながらダブレットの名を世界に知らしめているアイテムの一つでもあります。
マジックテープ素材の表面に別売りのワッペンを貼り付けてカスタマイズができる辺りも人気の理由かもしれません。
スケボーサイズとペニーサイズがありますが、値段は¥40,000~。
こうして紹介してきましたブランド、ダブレット。
気持ち良いほど明らかな差別化を図れる唯一無二の一着、是非また探してみてください。
詳しいコレクションはこちら
https://www.fashion-press.net/collections/brand/3168