RAF SIMONS (ラフシモンズ)
1995年、ベルギー出身のデザイナー、ラフシモンズが自身の名を冠して立ち上げたブランド、RAF SIMONS (ラフシモンズ)。
ファッションという概念も成熟し、幾千というブランドが生まれている現代ですが、「本当におしゃれなブランドとは?」という問いに対して、必ずその第一群に名を連ねるブランドで、今ストリートを席巻しているブランドのデザイナー達にも多大なる影響を与えているデザイナー(ブランド)でもあります。
自身のブランドだけでなく、その類稀なセンスで、ジルサンダーやクリスチャンディオール、カルバンクラインといったメゾンでもディレクターを勤め、世界中に名を轟かせているラフシモンズですが、実は工業系の学校を卒業しており、ファッションに関する正規の教育過程は経ておらず、独学で服作りをしているデザイナーになります。
彼がファッションに興味を持つきっかけとなったのは、学生時代のインターンで出会った、ベルギー人デザイナー、*ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク。
*ファッション史に名を刻む「アントワープシックス」の一人で、現在は名門校 アントワープ王立芸術アカデミーの学長でもあります。
服だけに拘らず、マスク、家具などありとあらゆる物をデザインする彼のファッションへの姿勢を見て、「専攻が異なる自分も働かせてもらえるのでは?」と手紙を送ったのが始まりだと言います。
そこで1990年春、ウォルターが連れて行ったマルジェラのショー(場所は黒人が多く住む地区の公園だったそう)で、「ファッションの可能性」に衝撃を受け、ファッションデザイナーを志すことになります。
大学卒業後はインテリアデザイナーとして活動していたのですが、カッペリーニやカッシーナといった高級家具の生産に関われない現実を知り、小さなギャラリーで働く葛藤の中、一念発起してアントワープ王立美術アカデミーの門を叩くためにアントワープに移ります。
そして自らデザインした服を持ち、アントワープ王立美術アカデミーのファッション学科ディレクター、リンダ・ロッパに会いに行き、責任者でもある彼女が自分をコースに招待してくれることを期待しましたが、逢えなく入学を断られます。
ただその理由が『あなたが学ぶことはここにはない。』
まるで漫画のような話ですが、ノンフィクションの実話で、リンダは入学するよりも彼が独立しファッション、デザインをビジネスとすることを勧め、独立の支援をしてくれることになり、1995年にブランドが立ち上がりました。
そして当時のリンダ・ロッパを感動させたアイテムこそがこのラフ・シモンズの初めてのコレクションとなったのです。
未来を予言するコレクション
パリコレを筆頭に、世のブランドたちが参加するコレクションというのは、実際にその服がお店に並ぶ半年から一年近く前に開催されるので、各ブランドは、そのタイミングの社会や時勢などを鑑みつつ、自らのクリエーションを服に乗せていきます。
そしてコレクションの発表のための準備も勿論ある訳で、言うなれば2,3年もしくはそれ以上の先を見通す、先見の明が求められる訳なのですが、時に未来からやって来たのではないかと言う程、恐ろしくそのコレクションと世界の動きが一致するデザイナーも存在し、それがラフシモンズです。
極め付けは2001,2年と2020年。
ラフのアーカイブの中でも圧倒的な人気を誇る、高値で取引される2001AW「Riot Riot Riot」(通称:暴動期)、そして2002SS「’Woe Onto Those Who Spit On The Fear Generation…The Wind Will Blow It Back’ 」(通称:テロ期)。
2000年に一度活動を休止していたラフの復帰コレクションとして話題を集めましたが、
取り分けその内容から、「テロ期」とも呼ばれる2002SSのコレクションが発表されたのは、2001年9月11日の世界同時多発テロの約3ヶ月後だというのですから、末恐ろしさを感じます。
2000年に入っても最悪の惨事と言っても過言ではない事件とコレクションのタイミングが重なっており、今では不謹慎だと袋叩きにあってもおかしくないようなレベルでした。
そして2020SS、明確なコレクションタイトルこそないのですが、ルックで注目されていたのは、LABOコートやHANDPAINT HOSPITAL TOPといった医療というテーマを彷彿させるアイテム。そして実際にそのタイミングで世界を席巻したのが未曾有のウイルス、コロナウイルス(COVID-19)で、世界中で医療現場が逼迫しました。
HOSPITAL TOPはそのままですが、LABOコートの方は元々数学者をイメージソースにデザインされたようで、取ってつけたような話と言われればそれまでかもしれませんが、どちらもコレクションのメインアイテムとして登場するには珍しいアイテムですので、すごい一致かと思います。
そんなラフシモンズですが、デザインの特徴として「トラッドでクラッシックなテーラードスタイルと、反抗的な若者文化からインスピレーションをうけて、両者を融合させた、テーラードとユースカルチャーの融合」を挙げられ、
そのアーティスティックで芸術性の高さが特徴的ですが、 彼は元々文化的な娯楽がない田舎町で生まれ、映画館も美術館もギャラリーもブティックも存在しない、アートもファッションもない所で育ち、「トップ・ポップ」のようなテレビ番組、ブロンディやデイヴィッド・ボウイのような当時の人気アーティスト、また地元のレコードショップこそが彼の青春時代であり彼の大半の時間と感性を育んだ場所でした。
「学校以外のすべての存在は音楽を中心に構築された」という言葉も残していますが、逆に何もなかったことで、音楽に没頭して10代の青春時代を過ごし、それがデザイナーとなった彼の圧倒的な武器となります。
若い頃に影響を受けたカルチャーや人物をコレクションで表現する手法は今でこそよく使われる手法ですが初期の頃からラフシモンズはよく行っており、自らが聴いてきた音楽やそこから着想を得たインスピレーションをファッションに落とし込み、アートとして昇華していきます。
音ではなくファッションに還元する訳ですが、手法としてはサンプリングに近いものがあるのかもしれません。
そうしてそのカッコよさはHIP-HOPシーンにも波及し、カニエ・ウェストやドレイク、A$AP Rocky、トラヴィス・スコット など、数々のアーティストからも愛される存在となりました。
RAF SIMONSのアーカイブ
そしてラフといえばアーカイブ。
勿論現行のコレクションも人気ですが、過去のコレクションが今改めて高く評価されており、上記の彼らがMVやステージで着用したアイテムを筆頭に、二次流通市場で数百万円を超えるような値が付くこともしばしばです。
ここからはそんなアーカイブから、極めて評価の高い、2000年代初頭のものを筆頭にいくつか紹介していきます。
2001AW 「Riot Riot Riot」“暴動期”
特に人気が高いのが、休止後初のコレクションであり、先ほども少し登場した2001AW「Riot Riot Riot」“暴動期”です。
このコレクションは、ウェールズのロックバンド「Manic Street Preachers」からインスピレーションを受けたもので、またウィーンのフリーマーケットで、ウクライナやルーマニアから来た若者たちにインスピレーションを得て生まれたと言います。
都市型急進派とでも言うべき、ビッグサイズのフードブルゾンやコート、ボンバージャケットと言ったアイテムが特徴的で、それらを大胆にレイヤードし、モデルの多くはスカーフなどで顔を覆ってランウェイを歩きました。
また、ソニックユースとジョイディビジョンのコンサートのためのチラシ、*クリスティアーネF.の映画のポスター、写真、そしてことわざの断片などが衣服に貼られ、その中には、Manic Street Preachersというバンドの写真と、1995年にギタリストのRichey Edwardsが姿を消したことによる警察の報道コメントまでもが含まれており、バンドの本国であるウェールズで軽微な論争を呼びました。
「Christiane F」
*1970年代後半のベルリンを舞台にヘロイン中毒の14歳の少女Christiane F.(クリスチーネ・F)を中心に、当時のドイツの社会問題でもあった若者の薬物中毒を実話ベースのストーリーで展開する衝撃的な作品であり、RAF SIMONS本人が幼少期に非常に衝撃を受けた映画作品の一つです。
当時、かなりセンセーショナルな映画で、ヨーロッパでは、「若者のドラッグ使用による中毒の現実を見せ、警告のメッセージを発する作品」として高校の授業で生徒たちに鑑賞させる教材にもなっていました。復刻という訳ではありませんが、2018AWのコレクションには「Christiane F」にスポットを当てたシリーズが展開されました。
この写真のプリントを貼り付けるデザインや、ビッグシルエット、大胆なレイヤード手法はその後もラフのコレクションで度々登場し、また他のブランドにも模倣されていくスタイルとなります。
そしてこのコレクションで登場した”迷彩柄MA- 1”はカニエ・ウエストも着用し、リユース市場で最大$47,000もの値が付けられ、ラフのアーカイブの中でもおそらく最も有名な一着となりました。
2002SS「WOE ONTO THOSE WHO SPIT ON THE FEAR GENERATION THE WIND WILL BLOW IT BACK.」“テロ期”
このコレクションのテーマは”恐怖の世代に唾を吐く人への災い…風が吹く”。
通称”テロ期”と呼ばれるシーズンであり、ショーは真っ白のモデルがたいまつを掲げて登場するところから始まり、モデルたちは白と赤での配色で頭と顔を覆い裸足で歩き、”自由に戦う世代” ”理想主義的な若い男性”を表現しました。
ちなみにこのショーの始まり方は、A$AP Mobの「RAF」という曲(その名の通り、ラフシモンズ へのリスペクトを送った曲)のMVの中でサンプリングされています。
こちらのMVはラフの名作が数多く登場するので、是非一度ご覧いただけると良いかと思います。
また先述にもあったように、偶然にも世界同時多発テロという未曾有の事件ともタイミングが重なったコレクションで、アイテムとしては赤のフーディーが特に人気だったと言います。
2003AW「Closer」 “クローザー期”
2003-2004A/W通称”closer期”と呼ばれるコレクションのテーマはイギリスのロックバンド『*Joy Division』のアルバム名『closer』に由来しています。
*『Joy Division』はボーカルの自殺によって活動が休止してしまいますが、その後残ったメンバーで「New Order」を結成。
バンドのグラフィックの多くを手がけたピーター・サヴィルのアートワークをファッションに落とし込んだコレクションになりました。
Joy DivisionのアルバムのジャケットやNew Orderのアルバムのジャケットをモチーフにしたアイテムが人気を博し、中でもこのコレクションの中で伝説的なのはモッズコート(フィッシュテールパーカー)で、New Orderの2ndアルバム「*Power,Corruption & Lies(邦題:権力の美学)」のジャケットがプリントされたもの(花柄)に至っては200万を超えると言われます。
*1983年に発売されたアルバムで、「Blue Monday」や、「5-8-6」など数々の名曲も収録されており、前身のJOY DIVISIONから今までにかけて、一番成功を収めたアルバムと言われています。
”closer期”のアーカイブものは2018年S/Sのシーズンに復刻したことでも話題となりました。
2004SS「May the Circle Be Unbroken」 “宗教期”
2004S/Sは”Waves期”とも言われます。
ヘルマン・ヘッセの小説「シッダールタ」をテーマにしたシーズンで、シッダールタとは「釈迦」のことを指すため、通称”宗教期”と言われています。
少し怪しげなグラフィックを落とし込んだフーディーや落書きパンツなど、このシーズンも様々な名作が生まれました。
2014AW 「RAF SIMONS / STERLING RUBY」
スターリングルビーはロサンジェルス在住の現代芸術家で、彼の作品は光沢のあるウレタン彫刻、ドローイング、コラージュ、釉薬がたっぷりとかかった陶器、スプレーペイントにインスピレーションを受けたグラフィティ、ヴィデオなど、作品の技法は広範囲に渡り、「20世紀に出現する最も興味深いアーティストの一人」として高い評価を得ています。
ラフ自身もルビーを尊敬しており、その二人が構想を始めてから9年が経過し、両者の念願叶い満を持してのリリースとなったメモリアルなコレクションになります。
キービジュアルの異常なカッコ良さも目を引きますが、こちらも非常に人気の高いコレクションとなりました。
こうして上記に紹介してきた以外にも様々な名作があるラフシモンズですが、価格的にも流通量的にも二次市場で手に入れるのは不可能に近いかとは思います。
実際、アーティストの方々もMVなどで着用する際は、デビッド・カサヴァント (David Casavant) のようなコレクターでもあるスタイリストからレンタルして使用することが多いようです。
カサヴァントのコレクションから、ラフ シモンズ 2001AWのボマージャケットを着用するトラヴィス・スコット
https://www.youtube.com/watch?v=KnZ8h3MRuYg
ただ2018AWにcloser期の復刻があったように、ブランド25周年となる2020年末にアーカイヴ100点を復刻販売すると言われており、しっかり情報を追っていればそういうタイミングに出会す可能性がありますので、諦めずチェックすることをオススメします。
定番コラボ
adidas by RAF SIMONS
そんなラフシモンズは幾つか老舗のブランドと定番でコラボアイテムを展開しており、adidasとのコラボは有名で、取り分け有名なのがこちらの「RS オズウィーゴ」。
アッパーの半分を覆う分厚いソールパーツが特徴的で、2013年のリリースからシーズン毎に新たなモデルが生まれてきました。
登場が早かっただけにBALENCIAGAのTriple Sなどと比べるとその印象が薄いかもしれませんが、ひょっとするとオズウィーゴはダッドシューズの走りだったのかもしれず、その辺りを考えてもやはりラフの先見の明が伺えます。
オズウィーゴの次に登場したもので言いますと、こちらの「RS デトロイトランナー」。
未来志向で力強い視点を示したモデルで、クラシックなキャンバス素材のアッパー、流れるような曲線を描く近未来的なミッドソール、厚みのあるトレッドソールを組み合わせたエレガントなローカットシューズです。
上記の型以外にも定番のスタンスミスの型を使ったコラボなどもあり、誰しもが持っているものとは少し異なるアイテムになっておりますので、上手くハズしに効いてくれるかと思います。
RAF SIMONS × FRED PERRY
月桂樹ロゴのポロシャツで有名なFRED PERRY (フレッドペリー)とのコラボも。
こちらはブリティッシュテイスト溢れる清潔なブランドですが、上手くラフシモンズらしさが足されて遊び心が増しています。
絶妙な配色が効かされていたり、メタルのワンポイントが入ったり、インラインのフレッドペリーではおそらく登場しないディテールが現れます。
フレッドペリーのポロシャツと言えば、元々非常に使い勝手の良いクリーンなアイテムで、夏場少し外に出かけるのには持って来いの定番かとは思いますが、逆にそれだけ定番であるが故に人との被りも頻発するというもの。
そんな時に上手く溜飲を下げつつ、むしろプラスαで差をつけてくれるのがこのラインなのではないかと思いますので、日頃フレッドペリーをよく着るという方にも、フレッドペリーの良さは分かるけれど、今更インラインのものを買うのも、、という少しひねくれた方にもオススメです。
RUNNER
そしてこちらは“楽観的な未来主義”をテーマにデザインされ、2020AWからスタートしたラフの新たなフットウエアライン、RUNNERです。
SOLARIS、ANTEI、CYLON、ORION、2001などと名付けられた全8型で展開され、その名称からも分かるように、過去のSF映画からインスピレーションを受けたと思われる独特な形状や、スニーカーソールをミックスさせたブーツなど、ミニマルながらどれも新しさを感じさせるシューズになります。
これまでもずっとフットウェアを手掛けるという構想はあったようなのですが、ちょうど上手く靴に落とし込めるデザイナーが見つかり、遂に進めることができたのだと言います。
2001-2 HIGH
SF映画から名前を取られた一足
サイドの「RAF SIMONS」の刻印を除いて強い主張はない、非常にミニマルなヒールブーツですが、ヒールのソールだけスニーカーソールになっています。¥72,000(+tax)
SOLARIS-2 HIGH
コレクションでも多用されていた一足になります。
型的には2001-2 HIGHと似ているのですが、比較すると少しヒールも高く取られており、コントラストの効いたヒール部分が特徴的です。¥72,000(+tax)
CYLON
ミニマムなアッパーとは対照的に、一面全て完全にスニーカーソールで一体化した一足です。
2001やSOLARISと比較すると、アッパーのレザーがスムースというより、少しシボ感を増したものになっており、丈は少し短いですが、意外とトゥのボリューム感があります。¥54,000(+tax)
ANTEI
非常にボリューム感のあるスニーカーです。
アッパー、ソールの質感を変え、適度なボリュームも出しつつ、一色の中にちょっとした違和感と言うか変化を感じられる一足で、着脱可能なシューレースカバーが特徴的です。
この部分は同色のもの以外にも一色付属し、交換が可能になっています。
値段は色によって変わるのですが、¥43,000(+tax)
ORION
ANTEIとは対照的にそれこそスタンスミスを彷彿とさせる非常にシンプルでミニマルなスニーカーです。
ヒールには敢えてブランド名を入れず、そのパーツを少し斜めに伸ばした先に刻印されていて、外からは分かりませんが、実は名前の通りソールが星形にパンチングされています。¥25,000(+tax)。
こうして紹介してきましたブランド、ラフシモンズ 。
知れば知るほど素敵なブランドです。
国内で最も綺麗に扱われているのはMIDWESTさんかと思いますので、値は張りますが、是非一度手にとって見てください。
詳しいコレクションはこちら
http://www.fashion-press.net/collections/brand/43
参照:
https://www.modescape.com/mag/rafsimons-designer/
https://blog.gxomens.com/history-of-raf-simons-birth-1999-11-turning-points/
https://blog.gxomens.com/raf-simons-history-2000-2019/
https://www.wwdjapan.com/articles/1096446
http://www.upscalehype.jp/2016/01/5837/
https://369blog.work/rafsimonscollection3/
https://fashioncore-midwest.com/
https://www.grailed.com/drycleanonly/best-raf-simons-collections